なぜ暗黙知継承は失敗するのか――“有識者と推進者のズレ”という落とし穴
有識者と推進者の責任・決定権・指標をRACIで可視化し、暗黙知を“正しく回る仕組み”に変えるための要点を整理した記事。

暗黙知継承のセミナーを聞いていたら、「有識者と推進者には違いがある」という話が出てきた。
その場では正直ピンと来なかった。年齢で分けるような説明にも違和感があったからだ。
でも整理してみると、この違いは年齢の話ではなく、役割責任の話だった。
むしろ、この切り分けを理解しないと「なぜプロジェクトが止まるのか」が腑に落ちない。
有識者と推進者の定義
- 有識者(SME:Subject Matter Expert)
暗黙知を体得し、技術や品質の正しさを最終的に担保する人。 - PJ推進者(Project Driver/PMOなど)
プロジェクトを前に進め、仕組みを定着させる人。
👉 本質は「中身の正しさを守る人」と「それを回す人」という役割の違い。
両者の役割比較
観点 | 有識者 | 推進者 |
ミッション | 正しさ・安全性 | 定着・成果化 |
判断権限 | 技術基準・例外可否 | スケジュール・体制 |
知識の型 | 暗黙知・経験則 | プロセス・KPI |
強み | 深い洞察 | 推進力・巻き込み力 |
弱み | 組織最適に疎い | 細部を見落としがち |
暗黙知継承に必要な“両輪”
- 有識者は、要点や合格基準を提示する。
- 推進者は、それを教育・仕組みに落とし込む。
- 成功には「品質KPI」と「定着KPI」の二階建て設計が欠かせない。
RACIで整理する
役割を明確にするフレームワーク RACI を当てはめるとすっきりする。
タスク | R(実行) | A(最終責任) | C(相談) | I(報告) |
暗黙知の抽出 | 有識者 | 有識者 | 推進者 | 部長 |
ドキュメント化 | 推進者 | 推進者 | 有識者 | 関連部署 |
教育設計 | 推進者 | 推進者 | 有識者 / 人事 | 上層部 |
パイロット導入 | 現場リーダー | 推進者 | 有識者 | 部長 |
成果検証 | 推進者 | 有識者 | 現場リーダー | 上層部 |
👉 有識者は「中身の正しさ」に責任を持ち、推進者は「仕組みの定着」に責任を持つ。
納得ポイント
- 「違いがある」というのは年齢ではなく役割。
- 有識者=盾(正統性の担保)
- 推進者=矛(推進力・制度化)
- 衝突を避けるには、決定権の分掌 × 二階建てKPI × RACI明文化がカギ。
ちなみに…有識者コミュニティ
セミナーでは「有識者には有識者コミュニティがある」との話もあった。
必ずあるわけではないが、確かにベテラン同士で勉強会や委員会を作り、知識を共有する事例は多い。
一方で、推進者は孤立しやすいため、推進者側にも横のネットワークやサポートコミュニティが必要という示唆だと感じた。
まとめ
暗黙知継承を進めるときに大事なのは、
- 「中身の正しさを担保する有識者」 と
- 「組織に定着させる推進者」
この二つを混同せずに役割を分けること。
そして、衝突を避けるために RACIやKPI設計を明文化すること。
セミナーで聞いたときはモヤモヤしたが、こう整理すると「なるほど、これが継承が進むかどうかの分岐点なのか」と腹落ちした。

なつ
好奇心多めのマーケター。旅行が大好き!